中山優馬君主演の『それいゆ』が一年も待たずして再演です。前回すでに見ている作品なのですが、とにかく驚かされました。というのはこの作品が短期間に驚異的にパワーアップしているからです。キャストがこの作品を深く理解し、そんなキャストの皆さんに囲まれて座長である中山優馬君が人間らしい苦悩を背負って生きています。前回同様、核心に触れる部分が出てきますので、気になる方は見ないようにしてください。
あらすじはほぼ初演と同じなのに、うける印象が劇的に変わった再演の訳
すでに『それいゆ』ついては昨年の公演であらすじを書かせてもらったのでこちらをご覧ください。
中原淳一の生きた戦中、戦後を描いています。驚くほどにあらすじは昨年とほぼ同じです。しかし受ける熱量が初演と比べ物にならないほどに高い作品に仕上がっています。
こんな風に分析しては身も蓋もないかもしれませんが、個人的に感じた二大要素がこちら
- この作品をキャストが深く理解するようになっている
- 単なる天才ではなく人間として深く悩む優馬の姿が新演出によってクローズアップされている
この二点が大きな要因のように思えます。
この作品をキャストが深く理解するようになっている
パンフレットを見ると、シャッフル稽古をして、客観的に自分の役をみるという稽古をしたそうです。
優馬→仁太(五味についてるちんぴら)
佐戸井→五味
金井→天沢
JONTE→山嵜
ここには出てこないので、辰巳君は中原淳一の役をやったのでしょうか?(消去法でいくとかなり確率高し)
今回とても分かりやすいと感じたことの一つに、出演者のセリフが具体的になっている点があります。前回は、美しいものを語るので、どうしても抽象的な、主観的な表現が多くなりがちだったのですが、生活の中に息づく「なにに心をときめくのか」の“なに”といった部分が具体的で、明確になっているので、イメージがしやすくなっているのと、キャスト同士の阿吽の呼吸が育っていて、セリフのやり取りのちょっとした間でもくすっと笑えるようになっていました。
単なる天才ではなく人間として深く悩む優馬の姿が新演出によってクローズアップされている
そしてこれがとても重要だったのですが、「中原淳一は無敵の天才」ではなかったという部分が今回の一番のメッセージになっていたことです。前回の中原淳一は自分の美の追求のために、大切な仲間を次々と切り捨てていきます。美の追求のためにそれは必要であるから仕方がないことと、わりきって捨てていく。そこに躊躇はありません。「美」のためだから。今回は、そうやって「美」のために周りの人を犠牲にした淳一が、誰よりも「美」というものの厳しさで傷ついているというところにスポットが当たっています。ここがとても重要です。
優馬君は『ドリアン・グレイの肖像』で、自分の美しい肖像画が醜くなっていくことと引き換えに、自分自身は若く美しいままでいられる青年、ドリアン・グレイの役を演じました。その中で、アヘンに溺れ、身を持ち崩し、友人を殺し、そこで自分の肖像に向かい合う時の優馬の悲しさと寂しさが入り混じる苦悩を観たときに、背筋が凍ったのですが、今回の中原淳一の苦悩にも同じような複雑な心境が優馬本人から吐き出されていて、魂を奪われます。初演からの大きな飛躍に正直、戸惑うほどでした。『本質的な美しさは人から見向きもされなくなるのではないかという苦悩』に強烈なるスポットがあたる演出に拍手です。これが観たかった優馬君の演技なんですよね。
われらがふぉ~ゆ~の辰巳君ですが、淳一の右腕となるイラストレーター桜木を引き続き演じています。
初演の辰巳君についてはこちら
淳一の美しさに最も憧れていた男が桜木でした。初演に比べて、桜木も成長しています。それは彼の中にある、美とお金(ビジネス)のバランスです。桜木は美に憧れてはいるけれど「生きていくための妥協」というものを持っています。
細部に宿る桜木の心
一つ面白いシーンがありました。それいゆの開店を祝って花束を持ってきた山嵜と淳一が大喧嘩になり、怒った山嵜(佐戸井けん太)は最後に大きな花束を床にたたきつけて去っていきます。騒ぎを聞きつけて、桜木と天沢(JONTE)がやってくるのですが桜木は「騒ぎはこまるんだよな」といって、淳一を追いかけ、天沢は美しい花束を拾い上げて店に戻っていきます。
天沢との違いが明確に打ち出されています
桜木と天沢は本質的に違います。桜木は美しさを理解しつつ、それをビジネスに変換する力を持っています。天沢はビジネスに変換する部分を持ち合わせてはいません。その二者のあり方の違いを鮮明に打ち出しているのが今回の辰巳君です。銭ゲバである五味とは違いますが、美は人に受け入れられて、お金になってこそ意味があると思っている。加筆されたセリフには“効率のいい仕事”でいいんだというくだりがあります。そういっている時の辰巳君の表情が初演から変わっています。その場で拍手したい思いでした。
後に淳一が向き合うこととなる、桜木の幽霊(?)でのセリフの強さにもご注目を。辰巳君、今回もよい仕事をしています。
個人的な独り言
- 本日は『それいゆ』観劇に平野紫耀君と永瀬廉君が来ていました。びっくり。Jr.祭りお疲れ様でした(と心の中で言いました)
- 苦悩の優馬君の表情の仕上がり具合を観てしまうと、やっぱり『ドリアン・グレイの肖像』の再演を望まずにはいられません。仲田拡輝君も出てくれたら...もし無理なら…辰巳君でも…
- 辰巳君はこの後『23階の笑い』と休みなしですね。こちらも間をあけないでの再演。『それいゆ』がこれだけできがいいと、『23階~』も期待してしまいますね。
作品データ
製作年 |
2017年 |
公演期間 |
東京公演(サンシャイン劇場):4/6 – 4/11 福岡・小倉公演(北九州芸術劇場中劇場):4/14-4/15 兵庫・神戸公演(新神戸オリエンタル劇場):4/19-4/23 |
上演時間 |
約2時間30分(休15分) |
脚本 |
古家和尚 |
演出 |
木村淳 |
出演 |
中原淳一・・・中山優馬 大河内舞子・・・桜井日奈子 天沢栄次・・・施 鐘泰(JONTE) 桜木高志・・・辰巳雄大 元内弥生・・・愛原実花 五味喜助・・・金井勇太 山嵜幹夫・・・佐戸井けん太 仁太・・・山﨑雄介
奥村晴楓、神田敦士、中野涼子、西岡優妃 |