滝沢歌舞伎の初日で出演者が気になりながらも、戸塚祥太君主演の『Defiled』に行ってきました。DDD青山クロスシアターという小劇場のようなスペースで、大ベテラン勝村政信さんと二人芝居。しかもトッツーの役は“図書館に爆弾しかける青年の役”ということで、緊迫した、集中力の高い芝居に仕上がっていました。熱量の高めのトッツーレポをお送りいたします。まだご覧になってない方は核心に触れる部分もありますので、ご注意ください。
現在閉鎖中の青山劇場のすぐ近くにDDD青山クロスシアターという200人収容の小さくて居心地の良い小劇場があります。そこで、トッツーが攻めてる二人芝居をしています。前回は『寝盗られ宗介』で色気を爆発させていましたが、今回は元図書館司書で本を愛するが故に図書館に爆弾をしかける青年役を演じます。
前回のトッツー舞台のレポはこちら
あらすじ
ハリー(戸塚祥太)は、自分の元の職場であり、アメリカ有数の由緒ある図書館に爆弾を仕掛けた。ハリーの要求は「図書目録データ化の取りやめ」。ベテランの刑事ブライアン(勝村政信)はハリーとの交渉に向かわされた。「図書目録」になによりも高い価値を見出し、そのために爆弾を使用するという抗議の形をとったハリーにブライアンはコーヒーを差し出しながら、息子やイタリア系の妻の話をする。交渉の余地はないと話しながらも、ハリーは図書目録が廃棄される問題を超えて、効率化、画一化されていく社会への違和感について語っていく。自分の行動が「価値のある使命」であると信じてやまないハリーは要求と引き換えに自分が死ぬことも、最も大事な図書館が破壊されることになってもいいと思っている。一方、どんな世の中でも生きることそのものに価値があるというブライアン。ブライアンはハリーとの駆け引きの中で、それでもなんとかハリーを救いたいと願う。ブライアンはある妥協案を提示し、事件は収束するかに見えたが…
2017年トッツー芝居は節目の年に
トッツーは2013年から毎年1度、グループから離れて、お芝居に参加しています
製作年 |
タイトル |
脚本 |
演出 |
2013 |
『熱海殺人事件』 |
つかこうへい |
錦織一清 |
2014年 |
『出発』 |
つかこうへい |
錦織一清 |
2015年 |
『広島に原爆を落とす日』 |
つかこうへい |
錦織一清 |
2016年 |
『寝盗られ宗介』 |
つかこうへい |
錦織一清 |
ご覧の通り、つかこうへい作品をニッキさん演出、主演トッツーというスタイルで4年続けてつとめあげてきました。5年目の今年は、海外作品を鈴木勝秀さん演出で。リズムと勢いのつかこうへいワールドとは異なり今回は論理を積み上げるタイプのお芝居です。二人芝居ですので、ほぼ、舞台のどこかにはいる出ずっぱり状態で長セリフをこなすトッツー。あの勝村政信さんと堂々と渡り合える、信頼たる舞台役者に成長しています。
トッツーの狂気、笑顔、そして狂気が見どころ
今回の役柄は「図書目録のデータ化」に抗議し、図書館をクビになった図書館司書の役。この上のない狂気をはらんでいる役なのですが、狂気とともに、ブライアンとの対話の中で、変化していくトッツー(というかハリー)が見どころです。
図書目録の棚に対する愛情から土足で踏みつけられないトッツーがかわいい
公演前に「ボーン・イン・ザ・U.S.A.」とか「サーフィン・U.S.A.」とかアメリカっぽい、マッチョなアメリカっぽい曲から流れているのですが、オープニングは一転「カッチーニのアヴェマリア」とともに、爆弾をしかけるトッツー登場。図書館のいたるところに爆弾を仕掛けるのですが、上段の高い棚に背伸びをしながら爆弾しかけている姿がかわいい。図書目録の棚を大切にしていて、そこに足をかけて爆弾を仕掛けるときには靴をちゃんと脱いで靴下であがるところもかわいい。
本に対する愛情が強すぎて狂気の目になっているトッツー
爆弾を仕掛け終えて、机に脚をのせて、踏ん反り帰っているところをみるに、机には思い入れがないことがわかります。あくまでも愛は本だけ。そこに電話のベルが鳴り響きます。突然の電話にびくつき、狂気の目が走るハリー。神経質そうな、そしていらだちが止まらない狂気のはらんだトッツーに震えます。電話は世論調査の依頼でした。この舞台、全体的に緊迫しているのですが、ところどころに、こんなネタがちりばめられています。緊張と緩和のバランスが絶妙。その緩和に、交渉人でもある勝村ブライアン刑事の力量が発揮されています。「脱げ」と言われて下を脱ごうとしたりするおじさん。交渉人にしては間延びしています。しかし、それこそがハリーの信頼を得ることになります。
超絶長セリフの幸福に満ちた顔のトッツー
狂気のトッツーの信頼を得たのは、ブライアンの家族の話でした。特に感情的でアナログなイタリア系の奥さんの話。それまではブライアンのすすめるコーヒーを拒否していたのに、その奥さんの話を聴いてコーヒーを飲むハリー。そこからハリーは自分の思っていることを少しずつ話出します。それは断片的ではあるけれど、ハリーという人そのものを語っていました。中でも圧巻は「記録の歴史」について一気にまくしたてる部分。知識があふれ出て、翼がはえて飛んでいきそうな場面(実際、客席をまわりながら話す)では自分の頭の中にある知識と遊び、幸福に満ち溢れた表情をするハリー。ここ本当に幸せそうであり、ドヤ顔。いい顔してます。
リアルにうんざり、吐き捨てるトッツー
反対に別れた婚約者が説得に現れた時には、激しい失意に見舞われます。うんざりするような現実をつきつけられ、人間関係に傷つき、本にのみ救われてきたハリー。本だけが生きがいで、本のあるべき姿は紙の感触だと確信しています。それが今、利便性を追求するためにデータという、存在の不確かなものに変わろうとしている。ハリーの破壊行為はただ愛するものを守ろうとする思いから来ているのでした。しかし同時にそれを愛してない人にとっては理解がしがたいことです。
共感者を得たトッツーの変化は、この作品一番の見どころ
ブライアンはどこまでもリアルに生きる人間です。警察の仕事がつらくても、家族のために生きている。リアルを生きる人にとって「図書目録」を命がけで守ろうとする男を理解するのは難しいことです。そこで、転機は訪れます。イタリア系奥さんがいつも見ている料理のレシピについて語ると、ハリーの表情は緩みます。初めて共感を得た気持ちの笑顔。ここ絶対見逃さないでください。知識の手触りを持っている人が、ここにもいた!と思えた時に、ハリーは突然強くなります。この変化のトッツー素晴らしいです。
暴力的に変わっていくトッツー
そして強くなることは、この場合良いことではありません。仲間がいれば正義として認められ、正当性が高まる。ここでハリーは正義のために暴力が許される力を得てしまいます。今まであんなに大切に扱ってきた図書目録の棚を土足で踏みつけるようになります。それは自分の考えを他人に押し付けている強者のありかたです。交渉の糸口を見つけたブライアンは交渉を始めます。誰もがハッピーになる妥協点。正義を持った人間は交渉によろめきます。
しかし、トッツーハリーはここから飛距離を伸ばしていきます。もう一度、「図書目録」の未来を想像するのです。トッツーには、やはり交渉はできないのです。ラストの生き詰まる二人のやり取りについては、ぜひ会場でその空気を体感してください。
本日の独り言
- 勝村ブライアンが警察手帳を見せるシーンでよく見せるために、手帳を床に滑らせてハリーに渡さなければならないのですが、飛び過ぎて客席に落ちました。トッツーがまさかの客降り。
- 上演時間は1時間40分と短めなのですが、集中力はこれが限界と思えるほどに白熱しています。
- パンフレットビジュアルが最高のトッツー。鈴木勝秀さんと勝村さんとの鼎談記事で、小学生の時に上履きに三国志の呉って書いてめちゃくちゃ怒られたエピソードを話す戸塚さん。ただものじゃない。
作品データ
製作年 |
2017年 |
原作 |
LEE KALCHEIM 「Defiled」 |
演出 |
鈴木勝秀 |
出演 |
ハリー・メンデルソン・・・・・・戸塚祥太 ブライアン・ディッキー・・・・・・勝村政信 声の出演:中村まこと、佐藤真弓 |
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