久しぶりの更新です。今回は関ジャニ∞安田章大君主演の『俺節』です。3時間強の長丁場ですが、集中できる舞台に仕上がっています。おどおどした一人の青年の生き方と彼が言葉にすることのできない歌声。底辺を生きる人々の弱さとすごみにあふれた演歌の世界が広がります。ネタバレがありますので、まだご覧になってない方はご注意ください
『俺節』あらすじ
1990年、祖母が買ってくれた背広だけを身にまとって、一人の男が青森から演歌歌手になるために上京した。東京に出て、コージ(安田章大)は真っ先にほれ込んだ演歌歌手、北野波平(西岡徳馬)へ弟子入りをすべく、北野の事務所を訪れるが、にべもなく断られてしまう。手癖が悪く、事務所で問題を起こして出入り禁止となった北野の元弟子のオキナワ(福士誠治)と意気投合し、オキナワの住むドヤ街、みれん横丁に住むことになる。夜逃げ屋、あたり屋、放火魔。。。おてんとうさまに顔向けができない、ギリギリの生活がそこにはあった。突然、やくざに追われた不法滞在のストリッパー、テレサ(シャーロット・ケイト・フォックス)が逃げてくる。
彼女もまた、家族のために身を削って生きる人間の一人。恥ずかしくて人前で歌うことのできない歌手コージと自ら借金をしてコージに抱いてもらおうとするストリッパーのテレサ。そうやってドヤ街に居場所のない二人はひかれあっていった。コージは流しの大野(六角精児)の弟子となり、オキナワとともにドヤ街の飲み屋をまわりながら、流しのいろはを学んでいく。
テレサへの思いが募るコージだが、彼女はやくざにパスポートを奪われている不法滞在の身。ついに巡業でドヤ街を離れるという時に、コージはテレサの手を取ってドヤ街から逃げていく。流れ着いた場所でオキナワとテレサと3人での暮らしが始まった。
デビューを目指すコージとオキナワはコンテストに出ながらその機会を待っていた。そんな時に戍亥という事務所の社長(中村まこと)からデビューをしないかと誘われるが、コージ一人でデビューすることが条件だった。一方テレサは、パン工場で働きながら、コージを支えるが、工場長から「不法滞在の女と一緒にいることがデビューのさまたげになる」と言われ、口止め料として体を求められていた。
オキナワはコージのためにある決断をする。そして今までテレサの体に指一本触れなかったコージがテレサとついに結ばれた夜。テレサもまた決断をする。二人の決断の上にコージはどんな歌声を響かせるのか。
愚直な男の心の声
先日の『上を下へのジレッタ』で横山裕君がどれだけ、ジレッタの世界にハマっていたかをお話しましたのが↓こちら
今回の『俺節』の安田章大君のハマり具合についてはもはや、この物語にヤス君をキャスティングしてくださったことに感謝しかありません。
物語の中に「歌の中に、観客ではなく歌い手がいなければいけない。その歌い手を観て観客は共感する」と北野波平先生が仰っていましたが、
- 居場所のない愚直なヤス君
- それでも言葉にならない感情が漏れ出て歌になるヤス君
を観ると、自分自身の葛藤と重なって胸が熱くなってきていることに気が付きます。ヤス君の全てがここにさらけ出されて、その先に“伝わる”歌があります。
居場所のない愚直なヤス君
歌にたどり着くまでの、居場所がないコージがヤス君本人ともつながっています。関ジャニ∞のグループ内で、トークの猛者に囲まれ天然な発言をするヤス君。本当はもっとなにかうまく言いたいんだけど、うまく言えない。その愚直さ。愚直というのはうまく飾り立てることができません。ストレートすぎてちょっと引いちゃうときもある、それが愚直。なに言ってんだかわからないこともある。それが愚直。でも思いはちゃんとある。なにも考えてないのではなくて、その思いがあるのだけが伝わる。それが愚直。そういうヤス君がコージとして生きているのはもう必然としかいいようがありません。
言葉にならない感情が漏れ出て歌になるヤス君
コージの歌は“うまい”という歌ではありません。心地がいいわけではなく、聴き流すにしては色々とひっかかってきます。自分も正面から、体力を消耗しながら聴くような歌。それはさっき言った歌の中に観客が入り込んで共感するという作業が発生しているからなのです。コージの歌にはコージとヤス君両方ともが歌の中に立っています。二人の人生が歌の中で反映され、生きづらさが見えて、観客自身と重なり合って感動が生まれていきます。コンサートでもヤス君の歌声は魅力的なんだけれど、今回は人生をはらんだ演歌だからこそガツンと体がうちのめされます。体調を整えて舞台に臨みましょう。
そしてその脇を固めるのがオキナワを演じる福士誠治さんとテレサを演じるシャーロット・ケイト・フォックスさん。
スマートなルックスとは裏腹に熱い漢(おとこ)の福士誠治さん
オキナワはいい加減な男ですが、うまく世を渡っているタイプではありません。必ず最後は下手こいて自分がまいた種で身動きがとれなくなってしまうような男です。そんな男が損得抜きでほれ込んだのがやはりコージの歌。この声に惹かれたことだけがオキナワの変わることなき真実。そこはやはりオキナワも愚直さをかかえて生きているということでしょう。軽いけど愚直というこのころ合いがうまいのがやはり福士君。前にスーパー歌舞伎『ワンピース』でエースを演じた福士君は愚直に仲間を思いやる漢を感じましたが、ルックスのスマートさとは裏腹にこういう熱のある役が良くあいます。
ストリッパーなのに聖女なシャーロット・ケイト・フォックスさん
朝ドラ『マッサン』でおなじみのシャーロットさん。だいたいどのドラマでも聖女なんですよね。もう骨の髄まで“いい人”なんですよ。そんな彼女がストリッパーをやるというかなりの衝撃映像ではあるのですが、それ以上に、コージをまさにど演歌の世界で支えるのが欧米人という設定が衝撃。原作ではフィリピン人という設定になっていますから、これは舞台版オリジナルということになります。この“いい人”テレサ(名前がまた聖女っぽい)から出てくる言葉が“いい言葉”でしかも片言でいうので、みんなが聞き入ってしまいます。実際、テレサのセリフですすり泣きが聞こえてきました。改めていい人です。シャーロットさん。
3時間強という長いお芝居ですが、中だるみすることなく、ド演歌の臭いプンプンの濃い人間関係が繰り広げられ、そしてたどり着いた、“あの”ステージ。あのステージのコージの歌声には今まで観てきたコージの生きざまが全て詰まっている。走馬灯のようにという言葉がありますが、まさに人生をもう一度再生するかのような一曲。歌にはそんな底知れぬパワーがあるのです
ここがかわいいヤス君No.3
コージではありますが、ヤス君のかわいさがちょいちょ垣間見られので、ヤス君のかわいいシーンNo.3
No.3工事現場でヘルメット抱えているコージ
まずね、ここ工事現場なの。ものすごい男くさい現場なのに、そこでかわいらしくヘルメットもっちゃってるところ。ここ、普段のヤス君出てきた。可愛すぎる。どこかの雑誌で載ってませんかねこのシーン
No.2 アヒル口のコージ
とりあえず“デビュー”を目指しているコージにマスコミ受けする、表情を作らされる時のアヒル口。こういうのちゃんといれてくださる福原さんさすがです
No.1 引っ越し業者のスタッフさんに担ぎ上げられる時のコージ
がたいのいい引っ越し業者スタッフにコージが担ぎ上げられる時の、居心地の悪い顔がかわいすぎる。漢(おとこ)集団に紛れると本当にかわいいヤス君。
本日の独り言
- 師匠である大野を演じるのが六角精児さんなのですが、後半別の役で出てきます。眼鏡ないと分かりづらい。
- 高田聖子さんの元アイドルとストリッパーのすごみ。どちらの役も一目見ただけででそれまでの生きざまが見えてくるようなすごみです。圧倒されます。
- ヤスくんの濡場。これがエロというよりかわいい。タンクトップとパンツで姿で、1人あることで思い悩むのですが、かわいい〜。ぜひ、見てください。
- 公演特別メニューが青森、沖縄、ウクライナと役にゆかりのドリンクがそろっています
作品データ
タイトル |
俺節 |
製作年 |
2017年 |
公演期間 |
5月28日~6月18日 TBS赤坂ACTシアター 6月24日~6月30日 オリックス劇場 |
上演時間 |
約3時間30分(休憩20分) |
原作 |
土田世紀 |
脚本 |
福原充則 |
演出 |
福原充則 |
出演 |
コージ―安田章大 オキナワ―福士誠治 テレサ―シャーロット・ケイト・フォックス 流しの大野―六角精児 寺泊行代―高田聖子 エデゥアルーダー桑原裕子 戍亥辰巳―中村まこと 北野波平―西岡徳馬 |